自動点眼装置:手や首が動かしにくい場合でも点眼ができる

眼は、私たちが健康的な生活を送るうえで非常に重要な器官です。しかし、年齢とともに視覚に問題を抱える人は増えており、日本では緑内障が最も多い疾患の一つとされています。
緑内障の治療では点眼薬が欠かせませんが、海外の調査では、正しく点眼できていた人はわずか**8.6%**であったという報告もあります。点眼薬がうまく眼に入らずに、頬やまぶたに落としてしまったり、容器の先端が眼に触れてしまうことも多いうようです。
高齢の方、または手や腕、首の動きが制限されている方には点眼が困難になります。こうした問題を解決するために、手の細かい動作や首を後ろに倒すことなく、正面を向いた姿勢のままで点眼できる装置を開発しています(図1)。
この装置では、点眼薬の液滴に横から風を当てることで、目の位置まで液を運ぶという仕組みを採用しています。点眼液の軌道は、2階の微分方程式を解くことで求めることができます。自由落下方式に比べると構造はやや複雑ですが、座ったままで使えるため、首や手の運動に不安のある方でも楽に、確実に点眼ができるようになります(図2)。
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道下史也, 中野康汰, 山路倍弘, 安永弘樹, 内田惠子, 橋本和軌, 中澤徹, 内田裕久,
“エアー搬送を用いた自動点眼装置の開発”, 医療機器学 95(1) 12-19 (2025)
内田裕久, 道下史也, Amrita Bayarusaikhan, 内田惠子, 中澤徹、
“前向きの姿勢で使用するエアー搬送自動点眼装置:液滴の振舞い”,月刊バイオインダストリー (5), シーエムシー出版 2025年5月
医薬品使用モニタ装置:医薬品の使い忘れ防止!使用状況をクラウドで把握、点眼薬や軟膏にも対応

薬の飲み忘れや使い間違いを防ぐため、患者さん自身や家族などの介護者が医薬品の服用を管理しやすくし、さらに医療従事者が使用状況を確認できる装置を開発しています。医薬品の管理は重要でで、薬の飲み忘れや過剰摂取などの問題も起こります。こうした課題に対応するため、どの薬を・どれだけ使ったかを記録・確認できます。
この装置は、RFID(無線自動認識)技術と電子はかりを組み合わせたもので、医薬品の種類・量・使用者をリアルタイムにモニターできます(図1)。本研究では、識別番号を判別するRFIDに重さの測定機能を加えることで、錠剤や一包化された薬だけでなく、これまで管理ができなかった点眼薬や軟膏のような液体・半液体の医薬品にも対応できるようになりました(図2)。使用者を識別できるRFIDタグ付きのプレートも併用すると、個人ごとの使用状況を記録することもできます。
記録されたデータはクラウド上に保存され、アプリケーションソフトでグラフ表示が可能で、記録簿としてダウンロードすることもできます。
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加藤尚弥, 安永弘樹, 内田惠子, 中澤徹, 内田裕久,
“RFIDと電子はかりを用いた医薬品使用モニター装置の開発”, 医療機器学 94(6) 603-609 (2024)
光干渉断層計(OCT):高機能な眼底検査機器を目指して

眼科診療において欠かせない検査の一つに、OCT(光干渉断層計 / Optical Coherence Tomography)があります。OCTは光の干渉を使って網膜などの断層構造を観察できる技術で、非侵襲的に把握するために広く利用されています。
図1は本研究して開発したOCTの構成です。光源には波長830 nmのスーパールミネッセントダイオード(SLD)を使用し、ファイバカプラで分岐させた光を参照ミラーと試料に照射。その反射光を干渉させ、分光器でスペクトルを取得後、逆フーリエ変換を行うことで断層画像を生成しています。
OCT画像は、逆フーリエ変換によって得られますが、実数のデータを測定しているため、ゴースト像が対称的に現れてしまい、使用できる深さも半分になってしまいます。これを回避するため、ガルバノミラーの回転軸にオフセットを加える位相シフト法を導入し、光路長に差を持たせることで、OCT像とゴースト像を分離することができます。これにより、ゴースト像を15 dB減衰させることができていました。積層したセロハンテープの断面を観察した結果を図2に示します。ゴースト像の抑制ができ、かつ表示可能な深さ範囲を約2倍ほどに広げることができています。今後、従来なかった機能を付加する研究開発を進めていきます。
スマートフォンとAIを活用した眼底画像診断支援システム
眼の健康を守るためには、早期発見・早期治療が重要です。私たちは、スマートフォンを用いた小型の眼底撮影システムを開発し、より手軽に眼底画像を取得できる技術に取り組んでいます。
さらに、このシステムで得られた眼底画像に対して、AI(人工知能)による疾病の判定を支援する仕組みを構築しています。画像認識のための機械学習手法としては、従来のCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)に加え、近年注目されているViT(Vision Transformer)を導入し、両者の診断性能の比較検討を行っています。
これにより、眼疾患の判定支援の精度向上や、診療現場での迅速な判断支援,遠隔診断支援が期待されます。今後は、さらなる精度の向上と実用化に向けた開発を進めていきます。
瞬き検出技術
スマートフォンやPC作業中など、私たちは無意識のうちに瞬きの回数が減少しています。この特性は、運転中の居眠り検知や作業中の疲労モニタリングなどに応用されており、瞬きの検出は注目されている技術の一つです。
私たちの研究室では、メガネのフレームに小型カメラ(CCD)を取り付けたウェアラブル型装置を用い、より自由度の高い瞬き検出法の開発を進めています。得られた動画に対し、Pythonによる画像処理を1フレームごとに行い、リアルタイムで瞬きを判定します。フーリエ変換やハイパスフィルタ処理などの機能の追加を行っています。被験者に以下の4条件で各15分ずつの測定を実施しました:無作業時(視線固定)、動画視聴時(タブレット画面を注視)、読書時(近距離で黙読)、PC作業時などの条件下で、測定をし、プログラムを改良することで、視線移動によって生じる誤検出が減少し、より安定した瞬き検出が可能になりました。
磁気光学グラニュラー薄膜
磁気光学グラニュラー薄膜は、新しい磁気光学材料として注目を集めています。この研究では、コバルト(Co)微粒子がSiO₂薄膜の中に分散した磁気光学グラニュラー薄膜を室温および加熱条件下で作製し、その結晶性・磁気特性・光学特性を評価しました。
この試料では、磁界を変化させたときに、透過率が変化するマグネトリフラクティブ効果(magnetorefractive effect)も確認されました。